ジオ用語解説「3D都市モデル」

現実世界(フィジカル空間)から収集したデータをもとに仮想(サイバー)空間上でリアルに再現してシミュレーションなどを行う“デジタルツイン”を都市の規模で実現する際に、そのデジタル・インフラとなるのが「3D都市モデル」です。

3D都市モデルとは、航空測量などによって取得したデータを活用して都市の建物や施設などを3Dで表現したデータで、単なる3D形状のデータではなく、ジオメトリ(建物などの物理的な位置や形状)とセマンティクス(地物の種類や用途・構造・築年などの属性情報)が統合されているのが特徴です。

国土交通省が進めるデジタルツインの整備プロジェクト「Project PLATEAU」では、全国各地の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を推進しており、2024年度はデータカバレッジの拡大、ユースケースの開発・社会実装、3D都市モデルの活用コミュニティの形成、オープン・イノベーション創出、3D都市モデルの整備・活用にかかわるエコシステムの構築などをテーマとして約30件のプロジェクトを採択しました。同プロジェクトには約60の地方公共団体が参画しており、データ整備範囲は約250都市に拡大する予定です。

3D都市モデルは「G空間情報センター」で配布されており、Project PLATEAUで公開されている3D都市モデルは無償で利用可能です。

また、Project PLATEAUでは3D都市モデルのデータをプレビューできるウェブアプリケーション「PLATEAU VIEW」を提供しており、同ツールを使うことで各地の3D都市モデルを可視化することができます。2024年4月に提供開始したバージョン3.0では、作図機能や太陽光シミュレーション、ヒートマップ表現、Google Street Viewの閲覧機能などが追加されており、多彩な可視化・分析を行えます。

画像出典:PLATEAU VIEW


このほか、「東京都デジタルツイン3Dビューア」など、都道府県が3D都市モデルの閲覧ツールを提供していることもあります。

3D都市モデルの概要

3D都市モデルはOGC(Open Geospatial Consortium)で提唱されている標準的なフォーマット「CityGML」を基本とするほか、GIS(地理情報システム)や3D編集ソフトで扱いやすい形式に変換されて提供されている場合もあります。

3D都市モデルのファイルは経緯度に基づいて設定されたメッシュ単位に分割されており、利用する場合は対象となる地物がどの地域に含まれているかを確認してからダウンロードする必要があります。

3D都市モデルのデータは、建築物の詳細度に応じて「LOD(Level of Detail)」が定義されています。LODでは下記のように0から4まで定義されています。

LOD0 平面に投影したもので、高さ情報がない
LOD1 直方体の組み合わせで構成された箱モデル
LOD2 屋根や壁などを再現したモデル
LOD3 LOD2をさらに詳細に表現し、開口部や立体交差などを表現できるようにしたモデル
LOD4 建物の内部までモデル化したもの

Project PLATEAUにおいて、提供地域の全域で提供されているのはLOD1までで、LOD2やLOD3は一部のエリアのみ提供されています。

3D都市モデルの属性情報は、建物全体だけでなく、屋根や床、壁などのひとつひとつの面に対して付いている場合もあるため、たとえばあるエリアに存在する建物の屋根だけの面積を集計し、太陽光パネルを設置した場合の発電量を計算するといったことも可能となります。

また、地下街や地下埋設物など建物以外の3Dデータを整備して3D都市モデルに統合することにより、インフラ管理や人流分析、防災に役立てる取り組みも進められています。

画像出典:LODによる詳細度の違い


3D都市モデルの活用シーン

3D都市モデルは3次元の形状と属性情報を併せ持つため、これを活用して都市におけるさまざまなシミュレーションを行うことができます。

たとえば浸水想定区域の情報を活用することで、近隣の河川が氾濫した場合にどれくらいの高さまで浸水するかをシミュレーションしたり、時間帯や季節によって陽の当たり方がどのように変化するか再現したりすることができます。

建物の属性情報には、建築年や構造なども含まれているので、高さ以外の要素も含めた高度なリスク分析を行うこともできます。また、新たに建物を建設した場合に街の景観がどのように変化するかを視覚的にシミュレーションすることも可能です。

シミュレーションだけでなく、ゲームやVR、ARの背景画像として利用することも可能で、現実世界の建物を忠実に再現することにより没入感を得られます。

さらに、GISで統計情報や人流データ、交通データ、IoTデータ、衛星データ、ハザードマップなど他のデータと組み合わせることにより、まちづくりやインフラ管理、交通、防災、環境問題、観光などさまざまな分野においてシミュレーションや分析が可能となります。

画像出典:浸水想定区域を表示

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