【キーマンインタビュー】必要なものを自分たちの手で作ることで社会課題を解決。先駆者に聞くシビックテックの魅力

Code for Kanazawa代表理事/シビックテックジャパン代表理事 福島健一郎氏インタビュー

テクノロジーを活用して市民が社会課題を解決する取り組み「シビックテック」が全国に広がりつつあります。各地でエンジニアやデザイナー、研究者、行政職員、NPO関係者、学生など多様な人たちが各地のシビックテックコミュニティに参加しており、新型コロナウイルス感染症対策サイトをはじめ、テイクアウトマップや子育て支援サイト、ゴミ出し情報のアプリなど、さまざまなアプリやサービスがシビックテックから生まれています。

このような活動の先駆けとして日本で最初に生まれたシビックテックコミュニティが、石川県金沢市を拠点に活動するCode for Kanazawa(CfK)です。その代表理事を務めるとともに、全国のシビックテックコミュニティの支援を目的とした一般社団法人シビックテックジャパンの代表理事も務める福島健一郎氏に話をお聞きしました。

一般社団法人コード・フォー・カナザワ 代表理事/一般社団法人シビックテックジャパン 代表理事/アイパブリッシング株式会社 代表取締役 福島健一郎氏

社会の課題を直接解決できることに魅力を感じて「Code for Kanazawa」を設立

――シビックテックを始めようと思ったきっかけは?

福島 最初のきっかけは、米国でCode for America(CfA)という団体がITを使って地域課題に取り組んでいるというニュースでした。2012年にこのニュースを読んでCfAの活動に興味を持ち、色々と調べたら、ボストンの消火栓の位置を地図にプロットして、冬の積雪時にどこに消火栓があるのかわかるようにするサービスを提供していることを知り、「これと同じことを日本でもやりたい!」と思いました。

そのサービスはGoogleマップを利用したものだったのですが、技術的にはそれほどレベルの高いものではないのにもかかわらず、「冬に消火栓が雪で隠れてしまう」という社会課題を解決できてしまうことに驚きを感じました。エンジニアのスキルを少し活かすだけで社会の課題を直接解決できるという事例は、それまであまり見たことがありませんでした。

――Code for Kanazawaを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

福島 日本でもCfAのような活動ができないかと調べたところ、当時はまだそのような活動を行っている団体は見当たらなかったので、「それなら作るしかない!」と思って地元の金沢で作りました。アプリ開発をしている大学生や、IT企業の経営者、デザイナー、コワーキングスペースのオーナーなど地元の知り合いに声をかけて直接プレゼンして、それに応えてくれた9人でCfKを設立しました。

当初は月に1回のペースで定例会を開いて、そこには地元のメディアにも取材に来ていただけたのですが、「ITで地域課題を解決」と説明しても、あまり多くの人に理解してもらえないだろうということで、とりあえずプロダクトをひとつ作ろうという話になりました。それでメンバーで色々なアイデアを出し合って生まれたのが、ゴミの収集情報を手軽に確認できるスマホアプリ「5374.jp」です。

ゴミの収集情報を手軽に確認できるスマホアプリ「5374.jp

――最初に作るアプリとして5374.jpに決めた理由は?

福島 CfKのメンバーの1人に他県から移り住んだ方がいたのですが、その人から「ゴミの収集日がわかりづらい」という意見があり、ほかのメンバーも「可燃ゴミの日はわかるけど、それ以外のゴミの収集日を覚えていない」という声があったので、ゴミの収集日がわかるアプリがあるといいのではないかと思いました。

5374.jpはリリース直後からオープンソースとして公開しており、全国各地で5374.jpをもとにして作られたゴミ収集日情報のアプリがリリースされています。5374.jpをさまざまな自治体で使っていただく場合、依頼があればCfKのほうでサブドメインを発行することがあるのですが、サブドメインの数は現在130くらいです。

――5374.jpをリリースしたことへの反響はいかがでしたか?

福島 5374.jpが新聞などでも紹介されたこともあり、CfKへの参加者は大幅に増えました。実際に5374.jpというプロダクトを見せることで、「こういうアプリを作るんですね」と納得してくれて、それでこちらが「他にも色々なアプリを作りたいんですよ」というと、「それなら協力させてください」と言ってくれるエンジニアもいました。

現在、CfKではさまざまなプロジェクトを進めていますが、各プロジェクトチームに所属して活動している人たちをすべて数えると、100人以上はいるのではないかと思います。“Code for Kanazawa”という名称ではありますが、今では金沢市以外の石川県全域からメンバーが集まってきていて、金沢市以外の自治体についてもさまざまな課題解決のプロジェクトを進めています。

最近の成果としては、奥能登での子育て支援アプリや、コロナ禍で苦しむ飲食店を支援するための「金沢テイクアウトマップ」などを開発しました。

――CfK設立を経て、次にシビックテックジャパン(CTJP)を立ち上げることになった経緯をお聞かせください。

福島 2015年から各地のシビックテックコミュニティのメンバーと一緒に「CIVIC TECH FORUM(シビックテックフォーラム:CTF)」というイベントを開催していたのですが、このイベントは2017年までは大きな企業にスポンサーになっていただいて、識者を呼んで講演してもらっていたのですが、2018年からは方針を変えて、各地でシビックテック活動を行っている人たちに自らの取り組みについて語ってもらう形に変更しました。そのときにCTFの運営母体となる組織を作ろうという話が出たのがCTJP設立のきっかけです。

イベントの運営だけでなく、各地でシビックテック活動を行っている方たちが活発に意見を出し合って、役に立つ情報を共有したり、技術面で支援し合ったりと、みんながつながってお互いに助け合える、そのような活動の母体になれる組織が欲しいという思いがあり、2019年に一般社団法人として設立しました。理事として名を連ねている方々も全国各地に散らばっていて、それぞれの活動拠点はバラバラです。

各地のシビックテック活動
各地のシビックテック活動

――各地のシビックテックコミュニティの支援する取り組みとして、具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか?

福島 沖縄のシビックテックコミュニティであるCode for Okinawa(CfO)が、昨年夏にコロナ禍における県内のさまざまな事業者への緊急応援サイトとして「まいにちに。おきなわ」というウェブアプリを開発したのですが、これはCfKが開発した「金沢テイクアウトマップ」のシステムやコードをベースにしたもので、CTJPが開発協力を行っています。

プロジェクトがスタートしたのが2020年6月で、サイトがリリースしたのが9月と、短期間で4つのウェブアプリを作ることができました。あとは毎年恒例となっているCTFの開催や、各地のコミュニティが一堂に会して情報共有や親睦を行う「シビックテックミートアップ」というイベントの開催なども行っています。

ウェブアプリ「まいにちに。おきなわ」
ウェブアプリ「まいにちに。おきなわ」

――今後、CTJPでどのような活動を行っていくのか展望をお聞かせください。

福島 基本的には全国各地のコミュニティが参加するイベントをしっかり開催して、シビックテック活動を行っている人同士の交流を深めていくのと、「まいにちに。おきなわ」のときのようなコミュニティの実支援を行っていこうと思っています。

地域によってはシビックテック組織が法人化しておらず、メンバーも技術力も足りないという場合は協力するし、すぐ近くで活動している他のコミュニティを紹介するなど、各地の連携をもっと強化していきたいと思います。

ローカルなシビックテックコミュニティの場合、メンバー数や技術力が不足しているために小さな活動しかできないということも多くて、それでは持続していかないので、たとえばいくつかの小さなシビックテックコミュニティがまとまって活動するなど、横連携の支援もできたらいいと思っています。

お金ではない方法で持続可能な社会を創ることがモチベーション

――シビックテック活動は無償のボランティアで行われるケースが多いですが、そのモチベーションはどこから湧いてくるのでしょうか?

福島 「お金を貰わなくてもやる」という人は必ずいて、それこそがシビックテックの本質だと考えています。なぜお金をもらえないのにやるのかといえば、その理由は人によってさまざまです。単純に「楽しいから」「好きだから」という人もいます。「地図を使ったプログラムを作るのが好きで、それを作って『便利だね』と喜んでもらえればうれしい」という人ですね。

あとは、「社会課題を解決することで、それが自分にとっても役に立つ」と考える人もいます。たとえば今すぐ自分が使いたいアプリがあれば、エンジニアはそれを自ら作ってしまうと思いますが、「自分は使わないけど、これを作れば社会が良くなる」「誰かに作って欲しいと頼まれた」という場合は、それは今すぐ自分にとって役に立つものではないけど、もしかしたらそのアプリを必要とするときがいつか自分にも訪れるかもしれない。つまり、「将来の自分に向けて作ってあげる」という思いで活動しているわけです。「先に支払って、あとで受け取る」という考え方ですね。

自分がなにかを作ることで、ほかの人も別のプロダクトを作ってくれて、そうやってみんなが作り合う社会になれば、自分が必要とするサービスを色々な場面で受け取ることができるようになります。

「お金を払わないとサービスを受けられない社会でも構わない」というなら別にそれはそれで良いのですが、せっかく技術の力によって自分たちの力で色々なものを作り出せる時代なのだから、自分たちで必要だと思うものを自分たちで作って、そういうプロダクトが世の中にあふれることが肯定される社会にしたい。そういう思いで私はシビックテック活動をやっています。要するに、お金ではない方法で持続可能な社会を創りたいのです。

――シビックテック活動は、エンジニア同士の情報交換や技術力向上につながるというメリットもあるのでしょうか?

福島 そういう魅力も当然あるとは思います。シビックテックコミュニティには、プロダクトを最終的に作る人たちが多く、社会実装にまで還元されるので、エンジニアにとっては良い経験になることも多いです。

ただし、「技術の勉強だけをしたい」という目的だけであれば、それは少々回りくどい方法かもしれません。技術の勉強なら技術コミュニティに入ってエンジニア同士で最新の技術について勉強したほうが手っ取り早いです。やはり、自分の技術が社会に組み込まれる、きちんと使ってもらえるということにシビックテックの意義を見出している人が多いですね。

だから、「技術的には簡単だけど、プロダクトとしてはすごく良かった」というのはよくある話で、そのような反応を見てエンジニアは「こういうプロダクトなら喜んでもらえるのか」ということを学べる、それが魅力だと思います。

もちろん、仕事ではないので最新技術を実験的に使ってみるというケースもあります。たとえば金沢テイクアウトマップはノーコードツールのGlideを使っているのですが、それまでGlideで作られているテイクアウトマップって、すごくシンプルな感じのものが多かったんですね。

正直、これでは商品化されているようなサービスには追いつかないな、と思っていたのですが、機能を調べてみたらかなり充実していて、頑張れば高いレベルまで作り込めるのではないかということで、品質の高いものを作ろうとみんなでチャレンジしました。メンバーの中に飲食業界に詳しい方がいたこともあり、画面構成や画面遷移をかなり工夫したので、金沢テイクアウトマップの見た目はかなり凝っていると思います。

地図や位置情報はシビックテックに必要不可欠。「ITならこんなことができる」が当たり前の社会を目指す

――シビックテックのプロダクトには地図や位置情報関連のアプリやサービスがよく見られます。シビックテックにとって、地図や位置情報とはどのような存在でしょうか?

福島 私がシビックテックを始めたきっかけも消火栓マップだし、地図や位置情報と社会課題というのは関連性が高く、たとえば統計情報だけを見てもよくわからないけど、地図と組み合わせると伝わるというものもあるので、地図や位置情報はシビックテックにとって無くてはならないものだと思います。

この分野で最近注目している話題としては、国交省の「PLATEAU(プラトー)」ですね。まだ金沢市の3D都市モデルはオープンデータにはなっていないですが、公開された場合にこのデータをどのように活用するのかCfKでも議論していきたいと思います。

――CfKとしては今後どのように活動していくのか、展望をお聞かせください。

福島 CfKとしては石川県を活動拠点としているので、まずは石川県全体の行政のデジタル化、オープンデータの推進などに取り組んでいきたいと思います。

あとは、シビックテックというのはまだまだ一般の人には知られていないので、「ITの力を使えば社会がもっと良くなる」ということをもっと広めていきたいと思います。たとえ技術のことはわからなくても、「ITを使えばこんなことができる」ということを、みんなが普通に言うような社会にしていきたいですね。

URL

Code for Kanazawa
https://codeforkanazawa.org/

シビックテックジャパン
https://www.civictech.jp/

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