【ジオ用語解説】国土地理院
ウェブ地図サービス「地理院地図」を提供している国土地理院は、国土交通省の特別の機関で、日本で唯一の国家地図作成機関です。
日本国内において、すべての測量の基礎となる「基本測量」を行うとともに、国土地理院以外の国の行政機関や地方公共団体などが費用の全部または一部を負担して実施する「公共測量」の指導や助言も行います。
国土地理院の4つの役割
国土地理院の役割は、大きく分けて、「測量」「地図作成」「災害対応」「情報発信」の4つに分かれます。
(1)測量
国土地理院は日本の位置の基準を管理・提供しています。以下に、国土地理院が行っている測量関連の主な取り組みを紹介します。
VLBI測量
宇宙から届く電波を地球上の2つ以上のパラボラアンテナで受信し、受信時刻の差から距離を測定する「VLBI(超長基線電波干渉法)」と呼ばれる観測を行い、世界中のVLBI観測局と協働して観測することで日本の正確な位置を決定し、これに基づいて各地に設置されている電子基準点や三角点などを整備しています。
電子基準点の管理
電子基準点とはGNSS(全球航法衛星システム)を使った観測システムで、全国約1,300カ所に設置されています。測位衛星が発した電波を受信してリアルタイムに国土地理院の中央局に送信し、そこから電子基準点の位置関係を高精度に計測します。電子基準点の観測データは、測量で高精度測位を行う際に活用したり、地殻変動の監視に役立てられたりしています。
水準測量
2地点に立てた標尺の高さの差を繰り返し測定することで標高差を求める「水準測量」を行い、各地の正確な標高を求めています。水準測量を行うことで、標高の変化を把握することが可能となり、防災にも役立ちます。
重力測量
正確な標高を決めるために必要な「重力値」を測定する重力測定を実施しています。重力の測定は地上または航空機から行われます。重力値は標高を決めるためだけでなく、計量機器の校正や地下の活断層調査などの目的にも利用されています。
地磁気測量
方位磁石で針が北を指し示すのは、地球に磁場があるからです。地磁気とはこの磁場のことを意味し、地磁気の方向や大きさは場所によって異なるとともに、時間とともに変化します。
国土地理院では地磁気測量を行って定期的にその結果を発表しており、これにより方位磁石が示す北(磁北)と、地図の北(真北)とのズレ(偏角)の値がわかります。
測量行政の推進
全国で行われる測量作業が円滑に行われるための技術的な助言や、測量成果の精度を確保するための審査、国家資格である測量士・測量士補の試験・登録、最新の測量技術の普及促進などを行っています。
(2)地図作成
国土地理院は、さまざまな地図の基礎となる日本の国土全体の地図を整備・更新しています。以下に、国土地理院が作っている主な地図を紹介します。
電子国土基本図
各国の測量機関が一定の縮尺で、統一した図式で体系的に作成された地図を“基本図(basic map)”と呼びます。日本における基本図として、国土の管理に利用されているのが「電子国土基本図」です。
電子国土基本図は、位置の基準として利用される道路縁や建物の外周線などを収録した「地図情報」、航空機で撮影した駆虫写真を地図と重ね合わせられるように加工した「オルソ画像」、地名や施設名などを収録した「地名情報」の3つで構成されます。
電子国土基本図は、航空機による撮影で得られた空中写真をもとに図化作業を行って作成するほか、地図の更新には道路の整備者・管理者から提供された設計図や、国や地方公共団体が行う公共測量による都市計画基図なども用いられます。
主題図
さまざまな目的に応じて特定のテーマについて表現した地図を“主題図”と呼びます。国土地理院が作成する主題図は、火山防災のための「火山基本図」「火山土地条件図」、湖沼の利用・保全のための「湖沼図」、地震防災のための「活断層図(都市圏活断層図)」、明治期の低湿地分布を抽出した「明治期の低湿地データ」、風水害対策・地震防災のための「土地条件図」、治水対策のための「治水地形分類図」などさまざまなものがあります。
(3)災害対策
国土地理院では、地理空間情報に関する技術を活用して状況把握を行い、被災地の情報を提供しています。
土石流災害が発生したときはドローンによるレーザー計測を実施して三次元点群データから標高データを作成したり、大雨のときにSNSや空中写真などの情報から水際の位置を判読して浸水推定図を提供したり、大規模地震が発生した際には航空機による撮影を行いインターネット上で公開したりと、災害時に迅速な対応を行っています。
また、災害地に備えて地殻変動の監視やGNSS連続観測点「REGMOS」による火山の監視、土地条件図の整備、衛星画像の解析、自然災害関連の石碑(自然災害伝承碑)の情報整備など、さまざまな取り組みを行っています。
(4)情報発信
国土地理院が整備した地理空間情報は、「地理空間情報ライブラリー」というウェブサイトにて、さまざまな形で提供されています。
ウェブ地図サービス「地理院地図」をはじめ、防災に役立つ情報を閲覧できる「ハザードマップポータルサイト」、空中写真の閲覧サービス、公共測量情報のデータベース、基盤地図情報のダウンロードサービス、全国の基準点に関する情報の閲覧サービス、古地図コレクションなどさまざまなサービスがあります。
さまざまな研究開発や国際貢献
国土地理院では、巨大地震発生に関連する研究開発や、地震や火山噴火による位置情報の変化の把握・更新などの研究開発を行っているほか、地方公共団体との間で地理空間情報の活用促進のための協力に関する協定なども結んでいます。
また、国際活動にも取り組んでおり、国連に設置された「地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会」(UN-GGIM)に参画し、地図データのベクトル化を支援するためのオープンソースソフトウェアを集めた「国連ベクトルタイルツールキット」の普及などにも取り組んでいます。このほか、国際協力機構(JICA)と連携し、電子基準点など開発途上国の測量・地図整備技術の向上を支援するための技術協力も行っています。
茨城県つくば市にある国土地理院の本院には、地図や測量に関する歴史や技術を学べる「地図と測量の科学館」が併設されています。地理空間情報に興味のある方は、一度訪れてみてはいかがでしょうか?