【ジオ展2021】国土地理院藤村氏が基調講演で語る「国連ベクトルタイルツールキット」の現状

2021年4月23日、地図位置情報関連の企業やサービスが一堂に会する展示会「ジオ展2021」がオンラインで開催されました。ここでは、国土地理院 地理空間情報部 企画調査課長の藤村英範氏による基調講演「ジオのプロフェッショナリズムを求めて」の模様をレポートします。

国土地理院 地理空間情報部 企画調査課長の藤村英範氏

ベクトルタイルの主流化が現在の任務

藤村氏の国土地理院における現在の任務は、ベクトルタイルの主流化です。ベクトルタイルとは、JSONをバイナリ化したフォーマット内に書かれたテキストデータをタイルごとに持たせることで、ソフトウェアなど機械判読が可能な地図情報のタイルデータを指します。

ベクトルタイルは現在の「Google Map」などでも採用されている方式ですが、まだベクトルタイル化しておらず、「ラスタータイル」を使用する地図データは「OpenStreetMap」など数多く存在しています。

この広く普及する従来の「ラスタータイル」は、ラスター画像をタイルとし、内容をピクセル毎の色情報で格納しているため、機械による地図の内容の判読が困難であり、また色や太さなどのスタイルを変える事が難しいのですが、ベクトルタイルは地図の内容や状態が全てテキストデータのため、機械による判読が容易なほか、色や太さ、3D化などクライアント側でスタイルを自由に変更できるのが特徴です。

「ラスタータイル」と「ベクトルタイル」の違いについては国土地理院のホームページで解説されています。

ラスタータイル」と「ベクトルタイル」の違いについては国土地理院のホームページで解説されています
ラスタータイル」と「ベクトルタイル」の違いについては国土地理院のホームページで解説されています

ベクトルタイルの国土地理院の成果としては、2019年7月29日より試験公開されている「地理院地図Vector(仮称)」があり、こちらは実際に背景地図にベクトルタイルを使用したウェブ地図サイトとなります。

地理院地図Vector(仮称)では実際にベクトルタイルを使用したウェブ地図の動作が確認できます
地理院地図Vector(仮称)では実際にベクトルタイルを使用したウェブ地図の動作が確認できます

UNVTを「SDGsアクションプラン2021」でも積極的に推進

藤村氏は現在、ベクトルタイルの主流化及び、大学や研究機関などの研究成果や技術、ノウハウを民間企業が活用し、実用化や産業化へと結びつける、いわゆる産学官連携も進め、地方自治体などとも連携して、こうした地理空間情報の活用を推進しています。

藤村氏はこのベクトルタイルを国内のみならず、国連事務局で使ってもらうためのプロジェクト「国連ベクトルタイルツールキット(The United Nations Vector Tile Toolkit)」(以下、UNVT)を進めています。このUNVTプロジェクト、元々は藤村氏自身がベクトルタイルの技術を提供するために、国連事務局に約2年間派遣された事がきっかけとなっています。

今回はこのUNVTの最近の状況として、2点のトピックが挙げられました。1つは「日本政府の政策でのUNVTの位置付けを強化」ということで、具体的には、政府が2020年12月に作成した「SDGsアクションプラン2021」に「地理空間情報によるパートナーシップ」を盛り込んだ事です。

去年作成された「SDGsアクションプラン2020」の頃から地理空間情報に関する内容は盛り込んでいましたが、今回は国内だけでなく、国際連携も一体になってやっていくということで、更にその位置付けが強化されています。他にも「令和3年版国土交通白書」や「令和3年版国土地理院概要」などに、UNVTに関する内容のコラム掲載するなど、主流化を推し進めています。

UNVT主流化の動きとして、日本政府への働きかけを積極的に進めている事を紹介
UNVT主流化の動きとして、日本政府への働きかけを積極的に進めている事を紹介

東アフリカの配水管理事業にベクトルタイルを利用

UNVTのもう1つのトピックとして、「既存のプロジェクトでのVT努力を結集」ということで、こちらも具体的な事例として、東アフリカの配水管理事業が挙げられました。

東アフリカの配水管理事業において、ベクトルタイルを使用した地図データが活用されています

東アフリカのケニア共和国とルワンダ共和国における配水管理事業に対して、オープンストリートマップのデータからUNVTによるベクトルタイルを使った基本図データを作成し、両国の水道事業体や国内の技術者たちと連携してツール作成に協力しました。

これ以外にも、国連事務局には引き続き、国土地理院より人材を派遣しており、国連事務局のニーズに応じたベクトルタイルの地図を作って、それを連続的に更新する「毎週世界を更新する」という作業を進めています。

2019年に藤村氏が国連事務局にいた頃は、80時間世界一周として、80時間で世界中のオープンストリートマップのデータが1つのファイルにまとめられた「Planet.OSM」を更新するといった作業をしていた事もあったといいますが、現在は実際のニーズに応じて地域毎に異なる鮮度で更新する作業を行っています。

また、GitHub上では、ベクトルタイルを元にしたレガシーなサービスやツールを提供するというプロジェクトも進めているそうです。詳しくはこちら

国連事務局のニーズに応じた作業も進めています。また、GitHub上では、ベクトルタイルを元にしたレガシーなサービスやツールを提供するというプロジェクトも進めているそうです。詳しくはこちら

今後の課題としては、ウェブの地図アプリだけではなく、「QGIS」などのデスクトップアプリケーションでもベクトルタイルが使えるようにしたいとしています。

また、現在ベクトルタイルを使えないソフトウェアも多々あるので、こうしたアプリケーションでも使えるように、ベクトルタイルを元にしたレガシーなサービスを出していくといった実用化作業もGitHub上で行なっています。こちらについては「GitHubの方をちょっと覗いてみて、興味のある人は是非一緒に開発してほしい」との事です。

仲間を増やすために「具体的にやってみせる」

藤村氏は、「国連のための地理空間戦略(2021)ゴール」と題し、UNVTを世界共通の基本的なツールとして提供していくために、さらにUNVTを練り上げていく必要があると考えています。そのためには、藤村氏1人で練り上げていても効率が悪いため、練り上げの効率を高めるためには、より多くの仲間を増やす必要があると考えている、とのこと。

しかし「仲間を増やすためにはUNVTに対してより多くの人に関心を持ってもらう事が必要で、そのためには自ら何か面白いことをやってみせるのが一番だと思う」としています。

UNVTを世界共通の基本的ツールとして提供するための練り上げの段取りについて考える藤村氏

そして、藤村氏は現在この「具体的にやってみせる」のプラットフォームとして「Adopt Geodata」というプロジェクトをGitHub上で立ち上げています。世の中に出ているオープンデータで、現在まだまだベクトルタイル化していないデータは数多くあります。

「これらオープンデータを次々と、UNVTを使用して「Adopt」して“自分たちで”ベクトルタイル化をやってみせる事で、ツール自体の洗練化も行ない、さらにはより多くの人たちに関心をもってもらい、仲間を増やしていきたい」としています。

「具体的にやってみせる」プラットフォームとして、「Adopt Geodata」をGitHub上で立ち上げました。詳しくはこちら

また、仲間を集めるうえでの課題の1つとして言語の問題にも触れ、「英語が苦手な人もいるのでrubyコミュニティを模範として、ローカル言語も積極的に使うグローバルコミュニティを作って進めていきたい」と意欲を見せました。

英語が苦手な人でもローカル言語で使えるグローバルコミュニティを作りたいとしています

そして藤村氏は「ジオのプロフェッショナリズム」という考え方における具体的なプロフェッショナリズムの醸成について「技術の基礎となる、能力構築を重要視している。そのためのプロセスは日々勉強中だが、具体的な経験をしてもらい、その経験について思索的に観測、抽象的に概念化と進める事で能動的に実践できる。そしてその結果が、次の具体的な経験の向上に繋がっていく」など、プロフェッショナリズムを醸成する上でのプロセスなどについて、勉強をしているとしました。

また自身のプロフェッショナリズムのビジョンとして「時代に先んじた、知識」、「知識に裏付けられた、勇気」を挙げ、それに基づいたミッションとして「グッド・ガバナンスに、地理空間情報管理能力で貢献する」としています。

最後に「ジオの仕事をすることでジオのプロフェッショナリズムをお持ちの人も多いと思うが、このようにプロフェッショナリズムを具体的にビジョンやミッションとして、テキストに落とし込んでいく事が大事なのかなと思っていて、それを共有してもらう事で、自分も他の方々のビジョンやミッションを学びたいし、学んでほしい。ジオ展のようなコミュニティの中で、こうしたプロフェッショナリズムのカルチャーを作っていきたい」として、基調講演を締めくくりました。

藤村氏のビジョンとミッションを紹介しました

URL

ジオ展2021
https://www.geoten.org/2021

関連記事RELATED ARTICLE