【ジオ用語解説】デジタルツイン
デジタルツインとは、現実世界(フィジカル空間)の環境や、そこでやり取りされる情報を、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などを使って収集し、そのデータをもとに仮想(サイバー)空間上でリアルに再現する新しい技術です。現実世界の状況をそのまま仮想空間へ鏡のようにコピーするようなイメージから、“デジタルの双子(ツイン)”と呼ばれています。
IoTを始めとする技術の進化で注目を集めはじめたデジタルツイン
近年デジタルツインが注目されている背景には、IoTやAI(人工知能)、AR(拡張現実)、5G(第5世代移動通信システム)など、さまざまな技術の進化があります。
IoTはフィジカル空間のデータを収集するのに有効であり、たとえば製造現場においては、製品や製造設備、製造スタッフ、運搬装置などにセンサーやカメラを取り付けることによってさまざまなデータを自動的に取得し、リアルタイムに送信することでサイバー空間に反映することができます。
IoTによって取得されるデータの中には、位置情報も含まれます。現実世界の中で、さまざまなモノや人が今どこにいるのかを把握するために、衛星測位システムをはじめ無線通信を活用した屋内測位技術や、加速度センサーやジャイロセンサーなどさまざまなセンサーが活用されています。
一方、フィジカル空間をサイバー空間に再現したり、サイバー空間の中で何らかの操作やシミュレーションなどを行ったりする場合は、ARやVR(仮想現実)、MR(複合現実)などの視覚的な技術が有効になります。
また、IoTが収集した大量のデータを送信する際には、次世代の通信技術である5Gが役に立ちますし、膨大なデータを分析するには、機械学習などのAI技術を使うことで高い精度でシミュレーションを行うことが可能となります。
デジタルツインによる仮想モデルでのシミュレーションで品質向上やコストダウンを実現
デジタルツインの技術が大きく期待されている業界のひとつとして、製造業が挙げられます。たとえば自動車などの仮想モデルをコンピュータ上で構築することで、性能試験や故障予測などのシミュレーションを行うことが可能となり、不具合が発生した場合はその原因をコンピュータ上で特定することも可能となります。
製品だけでなく、その製造工程におい ても、生産ラインのデジタルツインを構築することで製造現場における不具合の発生を予測したり、必要となる人員の数や配置する場所などを仮想空間上でシミュレーションすることでコストダウンにつなげたりすることができます。
デジタルツインは製造業のほかにも、土木・建設や流通などさまざまな分野で活用が期待されており、最近では業種の枠組みを超えて、都市のデジタルツインをまるごと構築する取り組みも進められています。都市空間に存在する建物や道路、地形、人流、気候、環境、エネルギーなどのデータをサイバー空間に再現することにより、都市計画の立案や環境対策など、さまざまなシミュレーションが可能となります。
都市空間のデジタルツインで注目を集める「Project PLATEAU」
このような都市空間のデジタルツインを構築する場合に必要となるのが、建物の3Dモデルです。
国土交通省は2021年3月に、デジタルツインの構築を目的とした3Dモデルの整備・活用に取り組むプロジェクト「Project PLATEAU(プラトー)」公式サイトのver1.0をオープンし、同プロジェクトの2020年度事業として、すでに全国56都市の3Dモデル化を完了しています。
3Dモデルは社会基盤情報流通推進協議会(AIGID)が運営する地理空間情報のポータルサイト「G空間情報センター」上でオープンデータとして順次公開する予定で、このデータを閲覧できるウェブアプリ「PLATEAU VIEW」をPLATEAUのサイト上で提供するとともに、ユースケースや各種マニュアル、技術資料なども公開しています。
国土交通省の3D都市モデルプロジェクト「Project PLATEAU」Ver 1.0が公開。都市計画だけでなくゲームやVRでの活用にも注目が集まる | Graphia
https://graphia.jp/2021/03/30/plateau-ver10
PLATEAUで整備している3Dモデルは、2次元の地図に高さや建物の形状を組み合わせたデータで、建物の名称や用途、建設年、階数などの属性情報も含まれています。同データを活用したユースケースとしては、混雑状況の把握などの都市活動モニタリングや、避難訓練シミュレーションなど防災用途における実証実験がすでに行われています。
都市そのものをサイバー空間に再現して社会課題の解決を実現
PLATEAUのほかにも、デジタルツインを意識した3Dデータの整備プロジェクトはさまざまな自治体や組織などで行われています。
たとえば静岡県では、3次元点群データの取得とオープンデータ化を進めることにより、仮想空間の中に県土を構築する「VIRTUAL SHIZUOKA」という取り組みを進めています。
【キーマンインタビュー】ゲームや自動運転、災害対策にも活用。大きな可能性を秘めた「点群データ」の力 | Graphia
https://graphia.jp/2021/03/22/interview-sizuoka-sugimoto
同プロジェクトでは、静岡県の伊豆東部エリアを航空レーザ計測や、航空レーザ測深、移動計測車両によって高密度に取得したデータを2020年4月にG空間情報センター上で公開し、伊豆西部エリアについても2021年4月に同じくG空間情報センター上で公開しています。
都市そのものをサイバー空間に再現することで、デジタルツインはさまざまな社会課題を解決するための基盤となり、多種多様なビジネスや行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現につながっていきます。今後、都市の3Dモデルの整備が進み、オープンデータとして公開されることで、これらのデータがどのように活用されるのか注目されます。
URL
PLATEAU
https://www.mlit.go.jp/plateau/
G空間情報センター
https://www.geospatial.jp/gp_front/
「VIRTUAL SHIZUOKA」イメージ動画
https://youtu.be/dbRRwQje9Fo