【ジオ用語解説】ベクトルタイル
ベクトルタイルとは、ウェブ地図を表示する形式の1つです。地図を画像ではなくデータで持つ形式のためカスタマイズ性が高く、さまざまなサービスに応用できるため、近年ではさまざまなウェブサービスで採用されています。
ウェブ地図を表示エリアごと分割してデータにする「タイル形式」
ウェブ地図サービスや地図アプリの地図データの多くは、表示する一部分ごとを分割してデータにするタイル形式で格納されており、ブラウザやアプリから送られる「地図を表示したい」というリクエストに応じて、該当のエリアのタイルを描画しています。
このタイル形式はGoogleによって考案されたもので、現在のところ標準仕様となっているのが、タイル1枚を256×256ピクセルの正方形で表示する方式です。Googleマップのほか、OpenStreetMapや地理院地図などでも採用されています。
地球全体の地図を正方形1枚で表現したものが「ズームレベル0」です。このズームレベル0を基準にして、辺の長さを2倍にして4つに分割したのが「ズームレベル1」、さらに辺の長さを4倍にして16に分割したのを「ズームレベル2」と、ズームレベルが上がることに縦横のタイルの数が2倍ずつ増えていく仕組みになっています。
タイルを画像で表示する「ラスタータイル」
地図タイルの形式は、大きく分けてラスタータイルとベクトルタイルの2つに分けられます。
ラスタータイルは地図の内容をピクセルごとの色情報、つまり画像として格納する方式で、画像タイルとも呼ばれます。
イメージデータなので、色や太さなどのスタイルを変更することはできず、注記(地図上に記載されている文字)についても画像として表示されるため、タイルの向きを逆さまにひっくり返せば、文字も一緒に逆さまになってしまいます。
道路や建物、川、注記など地図を構成する要素を個別に変更することができないため、特定の要素を消すなど、取捨選択することもできません。
タイルを点・線・面の情報で格納する「ベクトルタイル」
これに対して、ベクトルタイルは画像データではなく、地図の内容を点や線、面や色などの数値情報として格納する方式です。ベクトルは英語で「vector」と表記するため、日本語では「ベクトルタイル」「ベクタータイル」と2つの呼び方がありますが、どちらもおなじものを指しています。
点や線、面ごとの数値を変更することにより、ラスタータイルと違って道路や建物、川などの色や太さなどを自由に変更でき、ユーザーの目的や好みに応じてさまざまなデザインにカスタマイズできます。
ベクトルタイルは、地図タイルとは別に、色や太さ、線の種類などスタイルを指定するファイルを組み合わせることで地図として表示されます。
ベクトルタイルを使った地図は、地図上のさまざまな要素の中から表示させたいものを取捨選択できるため、注記をすべて消した白地図や、鉄道路線や道路といった特定の地物だけしかない地図など、用途に応じて多種多様な地図を作ることもできます。
さらに、コンピュータによる地図内容の判読が可能となるため、たとえば地名をクリックすると、その地名の読み方を音声で再生する地図なども作れます。
また、地図上の要素をそれぞれ個別に表示させているため、地図の向きを斜めに回転させたり、逆さまにしたりしても、注記(地図上に記載されている文字)の向きを平行に保つことが可能で、鳥瞰図のような3D表示も可能です。
ベクトルタイルとラスタータイルを比較できるさまざまなサービス
ベクトルタイルとラスタータイルの違いを確認するのなら、ウェブ地図サービス「地理院地図」がおすすめです。
正式サービスとして公開されている「地理院地図」はラスタータイルを使用しています。デフォルトで表示される「標準地図」のほかに「淡色地図」や「白地図」などいくつかのスタイルが選べますが、線の幅や色合い、注記の大きさなどを変えることはできません。
一方、試験的に公開されている「地理院地図Vector」は地図を回転させたり、鳥瞰図のように3D表示させたりしてもと、さまざまな角度から地図を眺めることができます。
「地理院地図」と同じように「淡色地図」や「白地図」といった別スタイルの地図が用意されていますが、あらかじめ用意されているスタイルだけでなく、特定の注記だけを表示させたり、道路の幅を変えたり、川だけの地図や鉄道の線路だけの地図にしたりと、デザインを自由にカスタマイズできます。
地図サービスで採用が増えるベクトルタイル形式。国連でのオープンソースプロジェクトも
地図アプリでもベクトルタイルを採用するものが増えています。たとえば株式会社ONE COMPATHが提供する地図アプリ「地図マピオン」は、2020年11月にリニューアルし、ベクトルタイルの地図データがデフォルトになりました。
これにともなって、同アプリでは、町丁目単位まで境界線を際立たせた「境界線マップ」や、駅名が平仮名のみで表示される「えきのなまえマップ」といった地図にも切り替え可能になりました。
なお、「地図マピオン」は、地図のメニューの中から「旧デザイン」を選ぶと、従来のラスタータイルを使った地図に切り替えることもできます。1つの地図アプリの中で、標準地図のベクトルタイルとラスタータイルを両方とも収録しているものは珍しいので、2つを見比べてみてはいかがでしょうか?
ベクトルタイルの内容はテキストデータのため、画像ファイルであるラスタータイルに比べてファイルサイズが小さく、ストレージやネットワークの負荷を軽減できます。
ウェブ地図サービスの運用コストの削減を可能にするベクトルタイルを世界各国の公的機関に広めるため、地図データのベクトル化を支援するためのオープンソースソフトウェアを集めてパッケージにした「国連ベクトルタイルツールキット」というプロジェクトも推進されています。
今や主要なウェブ地図サービスや地図アプリの多くはベクトルタイルを採用したものへと移行しつつあります。Geoloniaが提供する「Geolonia Maps」もベクトルタイルを採用していますので、ぜひ一度試して、ベクトルタイルならではのデザイン性・カスタマイズ性の高さを体感してみてください。
URL
地理院地図Vector
https://maps.gsi.go.jp/vector/
地図マピオン
https://www.mapion.co.jp/
国連によるオープンソースの地図プロジェクト The United Nations Vector Tile Toolkit のご紹介 – Geolonia blog
https://blog.geolonia.com/2020/06/18/unvt.html
Geolonia Maps
https://geolonia.com/maps/