【ジオ用語解説】住所
地図上で目的地を探すときや手紙を書くときに欠かせないのが、所在地を特定するための「住所」です。今回は、この「住所」とは一体どのようなものなのか改めて考えてみたいと思います。
住居表示住所と地番住所の違い
住所とは民法において「各人の生活の本拠」、つまり生活の中心となる場所とされています。戸籍に登録されている「本籍地」は日本国内の場所であればどこでも良いですが、役所への届出書などに記載する「住所」は、実際に住んでいて生活の拠点としている場所にする必要があります。
住所には、建物に紐付く「住居表示住所」と、土地に紐付く「地番住所」の2つがあります。
住居表示住所は地方自治体が定めるもので、戸建て住宅や集合住宅、ビル、工場などの建物が対象で、役所への届出書に記載するときや、郵便や宅配便の宛先として利用されています。住居表示住所には、町名(字名)や街区符号・住居番号の組み合わせで表す「街区方式」と、道路名称と住居番号を組み合わせた道路方式の2通りがあります。なお、ほとんどの市区町村では街区方式を採用しています。
街区方式では「押上1丁目1番2号」や「押上1-1-2」といった表記になります。一方、道路方式では「東根市山形県東根市板垣中通り20」という表記になります。なお、住所表示住所は日本全国すべての建物に付与されているわけではなく、また、建物のない農地や駐車場、山林や空き地などにも付与されていません。
一方、地番住所は法務局が土地に付与している住所で、「山川里1234番地」や「山川里1234」のような表記となっています。「山川里1234-1」のように枝番がつくこともあります。不動産の登記や税金の計算に利用されています。また、住居表示住所がない地域においては、地番住所が住居表示住所として利用される場合もあります。
ただし、地番住所は複数の建物が同じ地番住所を使っていたり(住所表示住所でもまれに同じケースがあります)、隣の建物であっても離れた番号がついていたりするため、荷物の配達など個人の居住地を特定する用途で使うのは不便であり、一般的に「住所」というと多くの場面において住居表示住所が使われています。
住所を構成する要素
住居表示住所を構成する要素は、街区方式の場合は以下の通りです。
- 都道府県
- 市・区・町・村・郡・大字・字・条丁目
- 町・丁目
- 番地・号
- 建物名
- 部屋番号
このうち(2)については、自治体の規模によって様々です。「区」は政令指定都市で使われている区分で、千葉県美浜区のように市の下位として使われる場合が多いですが、東京都の場合は市を使わずに都の次がすぐに区となっています。
「郡」は町や村の上位として記載されます。1923年に郡制が廃止されてからは、行政の仕組みとしての意味は無くなっていますが、郵便や宅配便で住所を記載する場合はこれを含める必要があります。
「大字」および「字」は江戸時代の村や集落であったものを継承して使われているもので、市町村合併などにともなって消えてしまったものも多いです。
条丁目は北海道だけで使われている住所表記で、碁盤の目のような区画で用いられます。「南〇条東○丁目」といった書き方をします。
このほか例外として、京都では町名以外に「上る」「下る」「東入ル」「西入ル」という表記が入っている場合があります。
このような住居表示住所の整備・変更は日本政府によって一元的に行われるものではなく、全国各地の市区町村が独自に行っています。ただし、行政DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が近年高まっていることから、住所をデジタル化する上での基盤を整えようとする議論も進められています。
DXが進む中で重要性が高まる住所の正規化サービス
住所をコンピュータで扱う場合に一番の課題となっているのが表記ゆれです。住所は書き方に統一した決まりがないため、書く人や提出された書類を受け取る組織によって書き方のルールが異なります。
主な表記ゆれの原因には、以下のようなものがあります。
- 都道府県名の省略
- 大字や字の省略
- 漢数字と英数字の混用
- 全角と半角の混用
- 丁目・番・号の省略(ハイフンの使用)
- 建物名の省略
- 建物名のカタカナ表記・英語表記・漢字表記
- 地名や建物名のふりがなの違い
このほか、OCR(コンピュータによる文字の自動読み取り)を使った場合、漢数字の一とハイフンを混同したり、カタカナのハと漢数字の八を間違えたりといった間違いが起こり、正しくデジタル化できないことが起こります。
このようなコンピュータ上で住所を扱う際の表記ゆれ問題を解決するため、表記がゆれている住所を統一したルールに沿って名寄せを行う「正規化」というサービスを各社が提供しています。
住所の正規化サービスは、地図会社をはじめとした様々な企業が、「住所クレンジングサービス」「住所クリーニングサービス」「住所変換サービス」といった名称でサービスを提供しています。なお、グラフィアを運営するGeoloniaも住所正規化とジオコーディング(緯度・経度の付加)を同時に行える「クイック住所変換」サービスを8月に提供開始しました。
クイック住所変換 | 自動で住所正規化・緯度経度追加サービス
https://quicknja.com/
また、正規化を行うための住所マスターデータについても民間企業各社が提供するほか、デジタル庁も「アドレス・ベース・レジストリ」として整備を進めています。
住所は地図と同様に、一度整備したらそれで完了というわけではなく、自治体が住所を整備する過程で地名が変更されたり、エリアの範囲が変わったり、建て替えやリフォームによって建物名が変更されたりと、時間の経過によって様々な変化が起こるため、マスターデータの更新に合わせて継続的に正規化を行っていく必要があります。
なお、コンピュータ上で取り扱う際の住所の表記ゆれの問題を解決するための方法として、建物などの不動産情報に対して共通のID(不動産ID)を付与し、住所と紐付けて運用する取り組みも模索されており、国土交通省より不動産IDのルールに関するガイドラインも発表されています。
今後、社会のあらゆる分野においてDXが進められていく中、所在地の特定を容易にする住所正規化や不動産IDの重要性はますます高まっていくことでしょう。
URL
電子国土基本図(地名情報)「住居表示住所」 | 国土地理院
https://www.gsi.go.jp/kihonjohochousa/jukyo_jusho.html
クイック住所変換 | 自動で住所正規化・緯度経度追加サービス
https://quicknja.com/
住所の表記ゆれを正規化・名寄せ|住所クレンジング|ゼンリンデータコム法人向けサービス
https://www.zenrin-datacom.net/solution/address
住所クリーニングサービス(正規化) | 株式会社アグレックス
https://www.agrex.co.jp/service/detail/address-cleaning.html
住所変換サービス(無料)
https://www.ncm-git.co.jp/service/addressconvert.html