ジオ用語解説「リモートセンシング」
リモートセンシングとは、人工衛星やドローンなどを使って、対象物に触れることなく離れた場所から観測する技術を意味します。カメラやレーダーなどのセンサーを使ってデータを取得し、それを解析することで大気や地表、海面の状態などを把握することができます。GIS(地理情報システム)で扱うデータを取得するための技術でもあり、リモートセンシングのデータを地図上に可視化することでさまざまな分析を行えます。
リモートセンシングは、対象物から反射または放射される電磁波などを測定するためのカメラやレーダーなどの「センサー」と、センサーを搭載する機器を意味する「プラットフォーム」によって行います。プラットフォームには以下のような移動体が使われます。また、移動体ではなく特定の場所にセンサーを固定して観測する場合もあります。
・人工衛星
・航空機(飛行機/ヘリコプター/飛行船/気球)
・ドローン
・車両
・船舶
センサーの種類
衛星やドローンなど上空からのリモートセンシングで使われるセンサーは、対象物が反射・放射する可視光線や赤外線、マイクロ波などの電磁波を計測する「受動型」と、対象物に向けて電磁波を照射して反射波を計測する「能動型」の2種類に大別されます。
受動型センサーの中でも、太陽光が地上や海面に当たって反射した光や、地表が放射している熱を測定できるのが光学センサーです。光学センサーは、テレビやインターネットで目にするような衛星写真をデジタルカメラのように撮影できるほか、近赤外線や中間赤外線を使った計測も光学センサーで行われ、植生や河川、大気などの調査に使われています。可視光や近赤外よりも長い波長域である熱赤外を捉えて観測することで、地表の表面温度を測定することもできます。なお、光学センサーは雲で遮られると地表の様子を観測することはできません。
また、受動型センサーの中には、光学センサーだけでなく、雲や雪などの水分を観測できるマイクロ波放射計もあります。
能動型センサーの中でも、近年ニーズが高まっているのが合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)で、これは可視光線や赤外線よりも波長の長いマイクロ波(電波)を地上や海面に照射し、反射状況を計測するセンサーです。SARは昼夜にかかわらず観測することが可能で、雲で遮られていても観測できます。天候に左右されないため、自ら電波を発するために常に同じ条件で観測できるのが特徴です。
能動型のマイクロ波センサーとしては、このほかに雨や雲の様子を観測できる降雨レーダーや、海面の高さを計測できるマイクロ波高度計などが挙げられます。
リモートセンシングではこのほかに、マイクロ波ではなくレーザー光を使ったLiDARと呼ばれるセンサーも使われます。これは地上から反射したレーダーをとらえるセンサーで、対象物までの距離を計測できる特性を活かして、地形や森林の樹高、大気の粒子の観測などを行えます。
また、海洋では電波を使って海水面の流れや波を観測できる海洋短波レーダーが使われているほか、船舶を用いて海底の地形観測などを行う場合は音波が使われ、近年では多数の音波を使って高分解能のデータを得られるナローマルチビームの利用も増えています。
身近になってきたリモートセンシング
このようなさまざまなセンサーによって得られるデータを活用することで、農業・漁業・林業などの一次産業や、資源開発、インフラ保守、防災など色々な分野においてデータ分析や業務効率化に役立てることができます。最近では金融・保険・不動産などの分野でも衛星データなどが注目されているほか、教育や環境対策の分野でも活用が進んでいます。
近年は人工衛星によって得られた衛星画像を手軽に利用できる「Google Earth Engine」や「Tellus」などの衛星データプラットフォームが普及したことに加えて、ドローンも安価になってきたことから、衛星やドローンによるリモートセンシングは以前よりも身近になってきています。
さらに、特定の業種に向けてリモートセンシングデータを手軽に利用できるサービスやアプリも増えてきました。以下にいくつかの例を紹介しましょう。
事例紹介
(1)Sagri(サグリ株式会社)
衛星データを活用した圃場管理アプリで、農地を登録することで生育状況や土壌解析を行えます。生育状況を地図上で把握し、優先的に作業が必要な箇所を調べられます。土壌解析データにより、場所ごとの土の状態を把握し、適正施肥に活かすことで肥料コストの削減に役立てることができます。サグリではこのほかに衛星データを活用した農地状況把握アプリ「アクタバ」や作付け調査効率化アプリ「デタバ」なども提供しています。
(2)UMITRON PULSE(ウミトロン株式会社)
水産養殖向けの海洋データを提供するサービスで、高解像度のデータが毎日更新されます。海面水温や溶存酸素、クロロフィルa、塩分、波高、海流、風などさまざまなデータについて、2年分の過去データと2日先の予測データを見ることが可能で、データをグラフ表示することも可能です。専用アプリも用意されており、スマートフォンでも利用できます。
(3)天地人コンパス(株式会社天地人)
衛星データを活用して土地や環境、機構などを分析し、顧客ビジネスの効率化・高度化を支援するサービスで、水道管の漏水リスク管理を行う「宇宙水道局」や、エネルギーインフラの建設地探しを行える「風力発電適地分析ツール」、温室効果ガスの排出や貯蓄を算出できる「水田メタン排出推定方法論」などさまざまなメニューを揃えています。
リモートセンシングを行うためには、従来は専門知識の習得や高価なデータの入手が必要でしたが、上記に挙げたようなサービスを利用することで、誰もが簡単に衛星データを使った解析を行い、自分のビジネスの効率化・最適化に役立てられる時代になってきました。衛星データやドローンから得られるデータを自分のビジネスにどのように活用できるか、みなさんも考えてみてはいかがでしょうか?