ジオ用語解説「HDマップ」
HDマップ(HD Map)とは、自動運転や先進運転支援システム(ADAS)などに使われる「高精度3次元地図」を意味しており、頭のHDは高解像度を意味する“Hi-Definition”を略した言葉です。
HDマップは人間ではなく自動車などの機械が使うことを前提とした地理空間データであり、これに対して従来のカーナビ用の地図などはSD(Standard-Definition)マップと呼ばれます。また、HDマップとSDマップの中間的な情報量の地図をMD(Medium-Definition)マップやSDマッププラス(SD Map+)と呼ぶこともあります。
SDマップがカーナビなど人が操作するための機器において使用することを目的としているのに対して、HDマップは自動運転やADAS(先進運転支援システム)における車両制御を目的とした地図であり、路肩線や区画線のほか、道路標示や道路標識、信号機、路肩の壁や縁石、ガードレール、側溝、停止線、横断歩道など目に見えるもの(実在地物)だけでなく、道路中心線のつながりを示す“車線リンク(車道中心線)”など目に見えないもの(仮想地物)も多く含まれます。信号機や道路標識については高さ情報も含めた位置情報が収録されており、これをもとに自車位置の推定に役立てるといった使い方も可能です。
これらのデータは、LiDAR(Light Detection And Ranging:光による検知と測距)と呼ばれる計測機器やIMU(慣性計測ユニット)を搭載した「MMS(モービルマッピングシステム)」と呼ばれる計測車両を使って取得した3次元点群データをもとに、地物を抽出してベクトルデータの形式で生成します。MMSはRTK(リアルタイムキネマティック)という高精度測位に対応したGNSS受信機を搭載しており、これによって取得した地理空間情報はセンチメートル級の高精度を実現しています。
自動運転車には各種センサーやカメラが搭載され、周辺の情報を検知しながら走行しますが、センサーやカメラで捉えられる範囲は限られており、曲がり角の先にあるものや遠くにあるもの、速度規制など目に見えない情報を把握するためにHDマップが有効となります。また、HDマップに渋滞情報や道路規制情報、気象情報、災害情報などの動的な情報と組み合わせることで走行経路の状況を先読みすることが可能となり、適正なルート選択を行えるようになります。
HDマップの整備については、国内外の地図会社や測量会社がそれぞれ独自に整備し、提供を行っているほか、日本では複数の自動車会社や地図会社、測量会社などが共同出資して設立されたダイナミックマッププラットフォーム株式会社(DMP)もHDマップの整備を進めています。同社は2024年度までに国内の高速道路および自動車専用道路に加えて一般道路も含む約13万kmに対応する予定で、すでに同社のHDマップを搭載した自動車が複数のメーカーから販売されています。
また、日本だけでなく海外の道路についても整備を進めており、2022年9月には米国およびカナダにおけるGeneral Motors社向けのHDマップの提供範囲を40万マイルに拡大したと発表しました。また、2024年11月には、欧州16カ国の高速道路と幹線道路あわせて約27万kmのデータ提供を開始したと発表しています。
HDマップを自動運転だけでなく、他の用途に活用する取り組みも進められています。DMPのグループ会社であるダイナミックマッププラットフォームAxyz株式会社は2024年12月、青森県の八甲田・十和田ゴールドライン(国道103号)にてHDマップを活用した除雪支援システム「SRSS(Snow Removal Support System)」の実証実験を2025年2月20日~3月31日に実施すると発表しました。SRSSは、雪の下に隠れている路肩やマンホールなどの構造物の情報が収録されているHDマップ上に、除雪車の自車位置情報を可視化してガイダンスを行うことにより、目印がなくても安全かつスムーズに作業を進められるようになります。
また、DMPは2024年2月、株式会社Synspectiveとともに、国土交通省中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)の公募テーマ「次世代機器等を活用した道路管理の監視・観測の高度化に資する技術開発」において、「HDマップを活用した小型SAR衛星データ位置情報の高精度化による道路管理の効率化」の事業で採択されました。同プロジェクトでは、HDマップによりSAR(合成開口レーダー)で取得するデータの位置を高精度化させることによって道路インフラの監視・保全に役立つデータセットを開発するとともに、道路維持管理向けデータ連携システムおよびビューワーを構築して道路インフラ管理の高度化を目指します。
DMPは2024年9月にHDマップの対応フォーマットを20種類に拡充しました。これらの対応フォーマットの中には、ゲームなどの制作などに使用されるUnityやUnreal Engineも含まれており、今後はゲームやアニメーション、シミュレーター、建築など自動車関連以外の分野にも広がっていくことが期待されます。