【ジオ用語解説】LPWA
LPWA(Low Power Wide Area)は、位置情報追跡デバイスをはじめとしたIoT機器用のネットワークとして注目されている無線通信技術で、LPWAN(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれます。
低消費電力かつキロメートル単位の広いエリアを対象にした技術で、「通信速度は低速で送信できるデータ量も少なくても構わないが、広大なエリアで多くのデバイスとの通信を低消費電力で定期的に行いたい」という用途に向いています。
免許が必要なライセンスバンドと免許不要のアンライセンスバンド
LPWAにはさまざまな規格がありますが、大きく分けて、無線局のライセンスが不要のアンライセンスバンドと、免許や登録が必要なライセンスバンドの2種類があります。
無線局を開設する場合、電波法では総務大臣の免許を受けることが定められていますが、電波が微弱な場合は「特定省電力無線」としてライセンスが不要となります。アンライセンスバンドはこの特定省電力無線を使った規格で、代表的なものとしては「Sigfox」や「LoRaWAN」、「ELTRES」、「ZETA」などがあります。
ライセンスバンドは携帯電話会社が基地局を利用して提供するものが中心で、「セルラーLPWA」とも呼ばれます。通信速度が速く移動体での利用にも対応した「LTE-M(LTE for Machine-type-communication」と、低消費電力の「NB-IoT(Narrow Band IoT)」の2種類があります。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの携帯事業者が提供(NB-IoTはソフトバンクのみ)しており、各通信事業者に割り当てられた専用の周波数で通信が行われるため、安定した通信が可能です。
アンライセンスバンド
Sigfox
フランスのSigfox社が提供するLPWAネットワークで、グローバルで75か国(2022年6月現在)に展開しています。Sigfoxネットワークは、基地局とクラウドサービスをSigfox社が提供し、国ごとにSigfox社と契約したオペレーターが運用しています。欧州では868MHz帯、米国では902MHz帯、アジアパシフィックでは920MHz帯を使用しており、日本国内では京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)が展開しています。
LoRaWAN
SMETECH社が開発した周波数変調方式“LoRa(Long Range)”を採用(FSK変調を利用することも可能)したネットワーク規格で、SMETECHが中心となって設立された“LoRa Alliance”によってオープンな技術仕様が策定されており、異なるメーカーの機器同士で相互接続が行えます。
既設のLoRaWANゲートウェイを利用できる場合は、IoTデバイスごとに通信料金を支払ってそれを使用することも可能です。一方、LoRa変調の無線ネットワークを使って企業などが独自に基地局を設置し、プライベートネットワーク(プライベートLoRa)を構築するケースもあり、この場合はIoTデバイスごとに支払う通信コストが不要となります。
ソニーネットワークコミュニケーションズによるIoTネットワークサービスで、通信距離が見通し100km以上と長く、時速100km以上の高速移動体にも対応している点が特徴です。端末から基地局への片方向通信に限定することで送信端末の低消費電力を実現しており、コイン電池1個で動作が可能です。また、GNSSの高精度な時間情報を使って送信端末・受信局間で同期通信を行うことで高精度な通信を実現しています。
ZETA
ZiFiSense社が提唱している規格です。超狭帯域(UNB:UltraNarrowBand)による多チャンネルでの通信が可能で、メッシュネットワークによる広域での分散アクセスを実現します。LPWAの基地局の設置には通常、電源工事などが必要となりますが、ZETAの中継器は電池駆動が可能です。中継器を置くだけで通信エリアを低コストかつ短期間で構築することが可能で、低消費電力で双方向通信が可能となります。
ライセンスバンド
LTE-M(LTE Cat.M1)
LTEの空いた帯域を使用する方式で、LTE-Mの上り/下りの速度は1Mbpsです。移動時に電波を受信しやすい基地局に切り替えながら通信を継続する“ハンドオーバー”が可能なため、移動時でも比較的大きなデータを安定して送信する用途に向いています。
NB-IoT
通信速度が下り27kbps/上り63kbps程度と、LTE-Mに比べると遅いものの、機能がシンプルなためデバイスを小型かつ安価に設計できます。水道やガスのメーターや農場での気温測定など、移動を伴わない用途に向いています。
農場や街などさまざまな場所でLPWAの活用を模索
LPWAの活用事例としては、農場において温度や湿度、CO2濃度、照度などを計測して情報収集したり、街中にセンサーを設置して浸水監視に役立てたり、ガスや水道、電気などのメーターを無線監視したりと、さまざまな分野において活用が模索されています。
位置情報をトラッキングする用途でも、GNSSで取得した位置情報をLPWA経由でクラウドに送信し、PCやスマートフォンなどでリアルタイムに現在地を把握するといった用途に活用できます。荷物の追跡や車両の位置管理、車両盗難などの防犯対策など、さまざまな使い方が可能です。
たとえば株式会社ネクストスケープは2018年12月に、ロードバイクの盗難対策デバイスとして、Sigfoxに対応したIoTデバイス「AlterLock(オルターロック)」を発売しました。AlterLockは、飲料用ボトルを自転車に搭載するためのボトルケージ部に取り付けるデバイスで、Bluetoothでスマートフォンと接続し、所有者が自転車から離れるとガード状態に自動的に移行します。
ガード状態のときに衝撃を検知するとデバイスからアラームが発せられると同時にSigfoxのネットワークを介してクラウドにデータを送信し、所有者のスマートフォンに位置情報とともに通知する仕組みになっています。低消費電力かつ広域をカバーできるLPWAの特徴を活かしたサービスと言えるでしょう。
また、香川県高松市やNTTドコモ四国支社、ケノヒ、Geoloniaの4者が立ち上げた「男木島スマート交流プロジェクト」は2021年8月から2022年1月にかけて、高松市内の男木島の島内にLoRaWANゲートウェイを設置し、高齢者にIoTセンサーを携帯させて見守りを行い、センサーで得られた位置情報を地図に反映して遠隔地の家族に現況を伝える実証実験を行いました。
センサーが取得した位置情報や環境情報を省電力かつ広範囲にわたって低コストで収集できるLPWAは、子どもや高齢者の見守りにも最適です。LPWAの普及により、このようなIoTサービスは今後ますます増えていくことが予想されます。